出張撮影を当たり前の文化に。知られていなかった体験価値を提供 ピクスタ株式会社 李 せい | 急成長企業を支援してきたマーケティング会社が厳選した急成長企業と出会える場所「LEAPLACE」 - LEAPLACE
LEAPLACE
アプリでより快適にご利用できます
アプリで開く
出張撮影を当たり前の文化に。知られていなかった体験価値を提供
LEAPLACE
出張撮影を当たり前の文化に。知られていなかった体験価値を提供
ピクスタ株式会社
見出し画像
見出し画像

写真・イラスト・動画・音楽の素材サイト「PIXTA」を運営するピクスタが、2016年から新たに始めた事業が、好きな時に好きな場所で、プロに撮影を頼める家族・子供向け出張撮影プラットフォーム「fotowa」だ。口コミ平均評価は4.91点と非常に高く、口コミや紹介、リピート等によって活用ユーザーが増大している。実はこのサービスを作ったのは、入社半年で新規事業責任者として抜擢された、李せい氏。プロジェクト型で事業を立ち上げ育てていく、ボトムアップ文化が根強いピクスタの社風を体現した事業だという。李氏は具体的にどのような思いで事業を立ち上げたのか。話を聞いた。

起業するも挫折。次の挑戦の場として出会ったピクスタ

――李さんはどのようにしてピクスタと出会ったのでしょうか?

大学院を卒業後は入社したかった大手広告代理店にご縁がなく、知り合いを通じて IT 商社に入社しました。ただ、やりたい仕事ではなかったため半年で退社。その後、リクルートに入社して Web マーケティングに携わり、2 年間そのノウハウを習得。そして、自分の会社を作ってみたいと思うようになり起業しました。

今振り返ると、当時は起業すること自体が目的になっていたので、立ち上げた事業はどれもあまりうまくいかなかったんですね。「本当にこの事業をやりたいのか」と自問するようになって 1 年が経った頃、冷静に自分を見つめ直して会社を畳む決意をしました。

次は、マーケティングのスキルを生かせて、経営者の近くで働けるポジションで出直したい。そう考えて仕事を探していたところ、出会ったのがピクスタでした。この会社なら自分の価値を発揮しながら、新しいことに挑戦できるかもしれないと思えたし、人事部長から「ぜひうちで働いて欲しい!」とアツく求められたことが嬉しくて入社を決めました。

入社後は Web マーケティンググループで PIXTA の集客に携わり、経験のあったディスプレイ広告を中心に任せてもらいました。それから半年後、突然「新規事業をやらないか」と声がかかり、新規事業の事業責任者に抜擢されたのです。

与えられたヒントは「出張撮影」の 4 文字

――新規事業は、ある程度何をするか決まっていたのでしょうか?

いえ、「出張撮影」という 4 文字のキーワードをもらっただけでした(笑)。出張撮影で何か事業を考えて欲しいと。そこからマーケットや競合を調査し、ピクスタとして何をすれば価値を創出できるかを考えて事業計画を作り始めました。

提案したのは、個人向けの出張撮影サービスです。個人向けマーケットは国内で確立されていて、子供向け写真撮影市場は約 700 億円の規模がありますが、大手のスタジオアリスが半分を占めていました。でもいろんな人に話を聞いていくと、スタジオで撮影してもらいたいから選んでいるのではなく、子供向け写真の撮影はそれしか知らないから選んでいることがわかったんです。

もちろん、スタジオは天気に左右されないし、衣装が豊富で着付けもしてもらえる良さがあります。一方で、Instagram をはじめとした SNS の浸透によって、世の中の写真に対するニーズは変わっています。素人には撮影できないクリエイティブの写真が欲しい、多様なシーンで素敵な写真が欲しいというニーズには、応えられていないのではないかと仮説を立てました。

また、事業を考えていく中で自分の子供の頃の写真を振り返ったのですが、どれも父親が撮影していたので父親と一緒に写っている写真が 1 枚もないことに気が付いたんです。家族の行事や旅行で誰かが写っていない、みんなが写った写真が少ないというのは、すごく寂しいこと。

家族写真に限りませんが、他の誰かに撮ってもらうこと、全員が写っていること、素人では撮れないような素敵な写真を提供するのは、価値があると確信しました。

――ずっと残る写真だからこそ、全員が写る機会を作りたいと思えたということですね。サービスはいつリリースしたのでしょうか。

ざっくりとサービス像が浮かんだタイミングで、エンジニアとデザイナーがジョイン。2016 年 2 月に最小限の機能を搭載したサイトをリリースしました。

ただ、最初は「無料体験会」などのイベントを実施するも不発で終わることが多く、ほとんど予約が入ることはありませんでした。それでも、ユーザーの声を拾いながら自分たちで考えてサービス改善を繰り返し、同年 8 月に初めて Web 広告を出稿。すると、想像をはるかに超える反響を得られたんです。

8 月はちょうど七五三の写真を撮影してくれるフォトグラファーや写真館を探し始めるタイミングだったこともあり、予約が一気に埋まって。正直何が起きたのかわからないくらい驚きました(笑)。

想像以上の体験価値が口コミやリピートにつながる

――その後は、口コミやリピートでユーザーが増えていったのでしょうか。

そうですね。8 月以降、毎月予約がびっしり入るようになったので、11 月にユーザーが自由に投稿できる口コミ機能を実装しました。実は、口コミ機能の実装はかなり恐る恐るで、「慎重に考えた方がいいのではないか」といった声もあったんですね。だけど、ユーザーが感じたことが透明に公開されていることはプラットフォーム事業のあるべき姿なので、そう判断してリリースしました。

すると、驚くほどいいことばかりが書かれていたんです。口コミを書くことに何もインセンティブはないのに長文で書いてくれるユーザーがたくさんいて、プロのフォトグラファーに撮影してもらうという体験価値が期待以上だったことがわかりました。

フォトグラファー本人にはもちろん、口コミを通して私たちにも直接声が届くので、自分たちを信じて実装して本当によかったなと思いました。

――たしかに、フォトグラファーに来てもらって屋内外で撮影してもらうのは、多くの人にとって初めての体験かもしれません。

初めての方はとても多いです。初めて体験した方の声で印象的だったのは「私は子どもを見つめるときに、ちゃんとお母さんの顔をしていることがわかって嬉しかったです」という声。“素人では撮れない綺麗な写真”の価値だけでなく、「体験価値」を感じたという声は多いですね。

一度価値を実感すると、何か行事がある度にリピートされる方はたくさんいます。なかでも一番多く利用いただいているのは、毎月同じフォトグラファーを指名して予約してくださる方。ニューボーンフォトで気に入ってくれて以降、毎月撮影して毎月写真付きで口コミを投稿してくれるので、私たちも口コミを通してお子さんの成長を実感していますよ。

ゴールは決めても手段は任せるのが、ピクスタのボトムアップ文化

――サービスの拡充はチーム内で考えて実装しているのでしょうか。

そうです。施策はみんなで定量・定性データから検討したり、データがなくても直感的に「いけそうだ」と思ったら実装したりしています。

現在チームはエンジニアとデザイナー、ディレクター、フォトグラファーサポート、ユーザーサポート、企画の 12 人。完全な内製により、チームでサービスを育てています。

ユーザーの声を吸い上げてサービス改善につなげるのはもちろん、フォトグラファーに対してはオンラインでのサポートに加えてセミナーも開催しているので、リアルにお会いしたときに聞いた意見やアドバイスをサービスに反映させることもよくあります。

しかも、それらはすべて私が責任者として細かく指示するのではありません。私が渡すのは「fotowa を通してファンを増やして欲しい」といった漠然としたテーマで、それを実現させるための手段はメンバーに一任しています。

これは fotowa の事業に限らず、ピクスタに根付いた文化なんですね。ゴールは設定されてもその手段は完全に任されるので、私も事業立ち上げ当初は「出張撮影」の 4 文字しか渡されず、サービスづくりの過程も一任されていました。

それを象徴するような出来事があって、サービスをリリースして 2 年が経った頃、代表から「fotowa の価格設定ではうまくいかないと思っていた」と言われたんです。

fotowa の価格は「平日 1 万 9800 円、土日は 2 万 3800 円」ですが、同業他社には 6000 円の価格設定のところもあります。だから、この値段でやりますと伝えたときにざわついたんだそう。でも私の提案を却下することなく任せてくれたのは、ピクスタに根付いた文化があったからこそだと思いました。

出張撮影を当たり前の文化にして、fotowa はその代名詞になる

――事業を通して李さん自身、家族や写真に対する思いが変わったなどありますか?

以前、中国の実家に帰省したときに、現地の出張撮影を依頼して家族写真を撮りました。母親は最初「お金を払ってまで撮影してもらうなんて」と懐疑的でしたし、おばあちゃんは果たして笑ってくれるのだろうか、そもそもどんなフォトグラファーが来るのだろうかと不安がありました。

でも撮影が始まると母親をはじめ家族全員が楽しそうだったんです。しかも納品された写真のクオリティが想像以上で。しばらくは毎日写真を眺めるほど嬉しくて、このとき初めてユーザーの気持ちになれたと思いましたね。

それこそ、「私は家族といるときにこんな表情をしているんだ」という気づきもあったし、納品された写真を家族で見ながら会話した時間もすごく良かった。自分がユーザーになったことで気づいたことも、サービスに生かしたいですね。

――今後、fotowa はどんなサービスにしていきたいですか?

現在、47 都道府県でサービス展開していますが、まだまだ出張撮影を知らない人はたくさんいます。だから、出張撮影が当たり前の選択肢になるまで世の中に浸透させて、fotowa は出張撮影の代名詞になりたいと考えています。

最近、出張撮影は七五三やお宮参りだけでなく、ニューボーンフォトという新生児の貴重な姿を残す撮影が人気を博しています。これは、まだ外出が難しい新生児と産褥期のママを自宅で撮影するもので、出張撮影だからこそ叶えられる撮影です。そして、fotowa が提供したい「撮影体験の価値」にもつながっているんです。新生児の愛らしく神秘的な姿を残すだけでなく、フォトグラファーとのコミュニケーションや撮影の時間を通じて、産後ママがホッとする時間をつくる。 ニューボーンフォトのように、fotowa のような出張撮影があったからこそ生まれた新しい撮影需要もありますが、他にもまだまだあると思うんですよね。ペット撮影やシニアの方の集まり、発表会、成人式、新婚旅行などさまざまなシーンで活用できます。実際、沖縄で依頼する多くは旅行者なんですね。家族に限らずいろんな使われ方が広まっているので、出張撮影で幸せな体験をする人を増やして、この文化を広めたいと思っています。

FOLLOW US新着の記事をお届けします。